大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和25年(オ)30号 判決

上告人は被上告人に対する占有保持の訴を本案として、(一)被上告人の立入禁止、(二)上告人の占有妨害禁止の仮処分を請求して居るのであつて、本申請も占有に基くものであること記録により明である。されば本件は専ら占有関係によつてのみ判断すべきであつて本権の理由によることを得ないものである(昭和一一年一一月九日同年(オ)第一四九七号事件判決参照)。しかるに原審は特別都市計画法(原判決には「都市計画法」と記載しているが誤記と認められる)一四条及行政事件訴訟特例法一〇条を理由として、上告人申請の仮処分は許されないものと判断したこと判文上明である。しかし換地予定地の指定により、指定を受けた者は指定された土地の上に、これを使用収益すべき本権を取得するけれども、指定があつただけで従来の事実上の占有状態に変更のない限り、占有権の変動移転を生ずるものではない。蓋占有権は物を所持する事実に付せられた法律効果であつて、使用収益を為し得べき本権とは別個のものだからである。されば原審が特別都市計画法一四条を根拠として上告人は被上告人に対し占有妨害停止請求権を有しないものとし、上告人の本件申請を許すべきでないと判断したのは法律の適用を誤つたものといわざるを得ない。次に行政権の作用を阻止する様な民事訴訟法の仮処分が許されないことは行政事件訴訟特例法一〇条の解釈上明だけれども、上告人申請の如き仮処分は何等行政権の作用を阻止するものではない。即ち右仮処分が為されても被上告人が本件換地予定地を使用収益し得べき権原(本権)を有し、上告人が右権原を有しないことには何等の変りなく、被上告人は右本権に基いて上告人に対し該土地の明渡を請求し得べく、前記特別都市計画法一四条に規定された法律効果には全然影響を及ぼす処はないし、又計画施行者たる宇和島市長を当事者とするものでないから、該仮処分は右市長が本件特別都市計画施行についての権限の行使を阻止するものでもない。要するに本件仮処分は何等行政権の作用を阻止するものではないから、原審が行政事件訴訟特例法一〇条によりこれを許すべきでないとしたことも亦違法たるを免れない。そして右違法は原判決主文に影響を及ぼす可能性あること勿論であるから原判決はこの点において破毀を免れない。

よつて民訴四〇七条に従い裁判官全員一致の意見により主文のとおり判決する。

(裁判官 井上登 島保 河村又介 小林俊三 木村善太郎)

上告代理人松川孟一の上告理由

一、原審に於て上告人(原審控訴人以下同じ)が昭和二十一年九月七日合名会社堀部本店から宇和島市丸之内一ノ五五宅地二百二十三坪二合七勺を買受け爾来之を占有し、昭和二十二年二月七日宇和島経由其筋の許可の下に該宅地の中に住宅を建築していることは之を認めるが、其後昭和二十三年二月二十六日に宇和島市から前記上告人所有宅地の一部百七十坪七合五勺を都市計画による換地処分として換地予定地に指定せられその旨の通知を受けたことを認められるとの趣旨に判示せられているが、該通知は所有者にあらざる訴外吉田亮太郎に対して為されたものであつて、正当の所有者である上告人には今日に至るも何等の通知がないのであるから、上告人は之に拘束せられる理由がない。

然るに被上告人(原審被控訴人以下同じ)は上告人所有地を侵害(約二十坪である)せむとするから其の侵害を排除せむとして占有保持の訴を松山地方裁判所宇和島支部え提起すると同時に本件仮処分の決定を受けたものであつて、他方宇和島市の換地予定地指定処分に付いては叙上の理由に依り上告人に対しては無効である等の趣旨の下に行政訴訟を宇和島市を被告として松山地方裁判所に提出し右両訴訟は何れも目下審理中である。

二、原審に於ては「行政事件訴訟特例法第十条第二項の規定に従い右換地予定地指定処分の執行停止を求めることを要し、この手続を経ないで別途に他の訴訟で本件の如く右処分の執行停止の決定を受けたと同じ効果を生ずる仮処分はこれは許さないものといわなければならない」と判示せられているが、これは宇和島市が代執行をする虞のある場合には前記法条に基き仮処分を求めるけれども、宇和島市に於ては代執行をしないのであるから、換言すれば事実上の侵害行為をしないのだから其必要はないと思う。即ち該処分の通知を発した訴外吉田亮太郎に対しては代執行処分ができるけれども該処分の通知をしない真の所有者である上告人に対しては代執行ができないのであるからである。若し宇和島市に於て更に改めて上告人に対して該処分の通知をしてきた場合に於ては初めて上告人は其手段を採る必要があるが、夫れ迄は其の必要は認めないと思う。

三、而かも現に侵害行為をせむとする者は被上告人であるから、被上告人に対して、本件仮処分を求めたものであつて、仮りに宇和島市の該処分によつて被上告人が所有権を取得したとするも、自救行為は許されないのであつて、宇和島市が代執行処分により上告人から該宅地を取上げ、然る後に之が引渡を受くべきものであつて宇和島市が上告人に対し何等其挙に出でざる本件に在つては、上告人が其所有権に基ずき侵害せむとする未だ該宅地の引渡を受けざる被上告人に対し、之が排除の訴を提起し其の訴訟完結に至る迄民事訴訟法第七百五十五条に依る仮処分の請求を為し之が決定を受けたことは正当であつて其の点を看過した原審判決は当然破毀せらるべきものであると信ずる。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!